下請け脱却戦略。中小企業が「脱下請け」のためにできる7つのこと

下請け脱却をするにはどうすればいいでしょう?

「大企業の受注力におまかせ」だった時代から先行きが不透明な時代に入り「自社で独自の顧客開拓」を進めていく必要性に迫られている企業が増えてきました。

この記事では「下請け脱却戦略」についてお伝えしていきます。

この記事でわかること
  • 下請けとはどのような受注形態のことか。
  • 下請けのメリットとデメリット
  • 「下請け脱却」を目指す理由
  • 「下請け脱却」のためにできること
この記事の信頼性

スモールビジネスコンサルタント 高橋浩士(ワシ先生)
個人事業から最大スタッフ10人程度までのスモールビジネス専門のコンサルタントです。
自治体(県や市)、商工会議所などの経営相談員やセミナー講師も務めています。

下請けとは

下請けとは、ある企業(下請け業者)が、別の企業(元請け企業)から頼まれた(委託された)業務を受け、その業務をおこなうことで報酬を得る事業形態のことです。

下請けの例

  • 自動車メーカーが、部品の組み立て作業を他社に依頼する。
  • システム開発で、システムの一部の開発を他社に依頼する。
  • Webメディア運営会社が、記事の執筆をライターさんに委託する。
  • ビルメンテナンスで、メンテナンス作業の一部をほかの会社に依頼する。
他社から作業を依頼されたらそれは下請け、ってことでしょうか?

そうとは限りません。

下請けは「元請け企業」が発注主から受けた業務の一部をまかされることだと、一般的には認識されています。

下請けだと認識されるケース

  • 清掃会社が、ビルメンテナンス会社から、ビル清掃の仕事を受ける。
  • デザイナーが、広告代理店からポスターのデザインの仕事を受ける。
  • 町の自動車工場が、大手ディーラーから自動車整備の仕事を受ける。

下請けだと認識されないケース

  • 清掃会社が、自動車販売店のショールームの清掃の仕事を受ける。
  • デザイナーが、お菓子メーカーからポスターのデザインの仕事を受ける。
  • 町の自動車工場が、企業の営業車の自動車整備の仕事を受ける。

依頼側の企業の本業の一部を外部に委託しているのかどうか、という点が「下請け業務かどうか」を見分けるポイントです。

委託企業(依頼主の企業)が受けた仕事の一部を請け負うのかどうか、という点が「下請けかどうか」を判断するポイントです。

上記の場合のように、発注元の企業が受けた仕事の一部を委託された場合には下請け。

発注元の収益業務とは関連のない仕事を委託された場合には下請けとは考えないことが多いです。

上記はあくまで一般的な考え方で、ルールがあるわけではありません。
下請法(下請代金支払遅延等防止法)は、委託企業(依頼側)と受託企業(受ける側)の事業規模のみで「下請け」が判断されているため、上記で言うところの「下請けだと認識されないケース」でも、下請法では下請けだと認識される可能性が高いです。

サービス業での下請け

一般的には製造業での下請けが注目されやすいです。

でも現在は、サービス業での下請け業務も目立っています。

  • フード宅配サービスや通販サービスの配達員(アルバイトではなく業務委託が多い)
  • 大手運輸会社から地元の〇〇運送への下請け
  • 大手通信会社のコールセンターの下請け
  • パソコン販売店からの修理の委託
  • 大手家電店からの「エアコン取付」の下請け

一般的には、「製造業の下請け企業」よりも「サービス業の下請け企業」のほうが、さらに事業規模が小さいケースが多いです。

製造業の場合は製造設備の負担が大きいからですね。サービス業は比較的設備が小さく済むことが多いので、小規模な下請け事業者が多いのです。

下請け企業のメリット

下請け企業にもメリットはあるんですか?

不利な点ばかりが強調される下請け企業ですが、メリットもあるんですよ。

安定した収益源の確保

下請けの最大のメリットは「仕事量を確保できること」です。

大企業は安定的した資金力や大きな営業力を活用して、たくさんの仕事を獲ってきてくれます。

これらの「大企業が採ってきてくれた仕事」を下請け受注することで、中小企業は安定した収益を得ることができます。

たとえ単価が安かったとしても、まとまった量の仕事が安定的に入ってくると、経営は安定しやすいですね。

規模の拡大

大企業からの仕事を下請けで受注することで、中小企業は自社の規模を拡大することができます。

たとえば「特定の部品製造に特化」することで、受注量を増やし、事業規模を大きくすることだってできるわけです。

これにより、より多くの従業員を雇用したり、事業拡大に必要な設備投資を行ったりすることができます。

たとえばパソコンメーカーの台湾のASUSは、もともと全国のパソコンメーカーからマザーボードという部品の製造を請け負う会社でした。
全国のパソコンメーカーからマザーボードの製造を請け負うことで事業規模をスケールアップして、そののち自らがパソコンやスマホ製造に進出して成功しています。

生産性の向上

下請けに専念した場合、「頼まれたものをつくること」に業務を集中させることができます。

営業コストや製品開発コストが抑えられるため、生産性がアップして、収益率を高めることができます。

信頼性の向上

大手企業や有名なブランドの下請け業務をこなすことで、信頼性がアップします。

あの有名ブランド商品の部品は、ウチが作っているんですよ

といった実績によって、新規顧客獲得につなげることもできたり、資金融資を受ける際にも高評価を得ることができます。

下請けで仕事を受注することには、思ったよりも多くのメリットがあることがわかります。

とくに経営での「安定」が得られる点は大きいですね。

下請け企業のデメリット

下請けによるデメリットの多くは立場の不公平性に原因があります。

下請けの構造は、仕事を「あげる」元請け企業に対して、仕事を「いただく」下請け企業の関係で成り立っています。

つまり下請け企業では事実上立場に上下関係が生まれてしまうのです。

いくら名称だけ「事業パートナー」という呼び名に変えてもね。

するとどうしても下請け企業の要望は通りにくくなり(交渉力の低下)、立場が弱くなってしまうことから、さまざまなデメリットが生まれます。

取引依存度が高まる

取引依存度とは「ある特定の取引先に売り上げを依存している割合」を指します。

少ない取引先からの売上が、売り上げ全体の多くを占めていると「取引依存度(売上依存度)が高い状態」と言います。

取引依存度が高いと、ある特定の企業や業界に、自社の命運を託すような形になってしまいます。

元請け企業の業績が安定しているうちは問題がありませんが、元請け企業の業績が不安定になると、連鎖的に下請け企業の業績も悪化してしまいます。

取引依存度が高まると「いざという時」の対応力が低下してしまうことが問題です。

取引圧力を受ける

下請け企業がもっとも問題点として挙げるのが、この取引圧力です。

交渉力が弱まると「不利な条件」を示されても、断りにくくなります。

中でももっとも深刻でひんぱんでよく聞かれるケースは「できるだけ安くやってくれ」という価格圧力です。

この価格で引き受けないのなら、もうあなたには頼まないよ

という圧力が生まれ、泣く泣く安い価格で受ける、という構造が常態化してしまいます。

「圧力」がかかるのは価格だけではありません。
  • 納期の圧力「できるだけ早く作って」
  • 支払い条件の圧力「支払いは〇か月後ね」

といった不利な条件を押し付けられる「取引関係の不均衡」が生まれ、下請け企業の経営を圧迫します。

納期を急かされて他社の仕事をことわり、その結果ことわった他社からの受注が減って取引相手が少なくなり、ますます取引依存度が高まる。という悪循環が生まれます。

営業力やマーケティング力の低下

下請けで安定して仕事をもらうことができていると、自社から新たな営業活動をおこなったり、新規の発注元を開拓する必要がありません。

そのため、以下のような問題が起きます。

  • 元請け企業からの仕事量が減っても「自分から仕事をくれる会社をさがしに行く」という経験がとぼしいため、あらたな顧客開拓ができません。
  • 独自商品の開発や独自ブランドの強化をしていないため「売るもの」がありません。
  • 言われた価格で仕事をする状態がつづくと「自分から価格を決める」という発想がなく、価格戦略で収益を増やす発想が育ちません。
  • 「元請け企業から言われた仕事をやるだけ」の状態が続いていると、提案力や企画力も育ちません。

下請け企業のビジネスモデルに慣れてしまうと、イザというときに仕事をくれる会社を自分から探しに行ったり、自分から売っていく活動が難しくなるのです。

下請けから脱却すると期待できること

苦労して「下請けからの脱却」に成功したとして、それでどんな成果が期待できるのでしょう?

カンタンに言えば脱下請けの実現によって「下請けのデメリット」が解消される、ということです。

一方で「下請けのメリットを失う」ということでもあります。

下請け専業の企業が下請けから脱却して事業の自立性を高めると、以下のような効果が期待できます。

事業リスクの分散

下請け依存体質から脱却し、できるだけ多くの企業と取引することによって事業リスクが分散し、取引依存度が低下します。

これによって「もしも」のことが起きた時のリスクもおさえることができます。

価格主導力の獲得

下請け依存体質だと、元請けからの「言われるがままの価格」であることが多いですが、下請け脱却を実現して自社が「元請け」となることによって価格交渉力を持つことができます。

脱下請けよって「少しでも高い価格での受注」を取るための工夫が生まれやすくなります。

収益性の改善

下請けから脱却して自分で価格をコントロールできるようになれば、収益性も改善します。

多くの場合は下請け受注を継続することで作業量と「安定した売上」を確保し、独自の顧客開拓で「収益性」を確保しようとすることが多いです。

独自販路を開拓することで、売上の比率は少なくても、利益構成の比率を高めることが可能になるのです。

下請けを脱却するといっても、下請けをゼロにするわけではなく、徐々に構成比を変えていくわけですね。

事業継続への足掛かりの獲得

下請け脱却によって事業リスクが分散し、収益性が確保できると、事業継続性(事業を続けられる可能性)が高まります。

収益性が改善すると金融機関からの評価を高めることもでき、資金調達の条件が有利になる可能性もあります。

下請け脱却のための取り組み

下請けから脱却して、自社製品や自社サービスを売っていきたいです。どうすればいいでしょう。

下請け専業から脱却し、自社の製品やサービスを提供するためには、どんなことに取り組んでいけばいいのか、考えてみましょう。

見込み客との接触

下請け脱却を目指す企業の多くが「オリジナル商品の開発」から手掛けてしまいますが、順番がちがいます。

下請け脱却を実現する際にもっとも大事な点は「自社の技術やサービスで、誰のどんな課題の支援ができるのか」というニーズを見つけ出すことです。

そのためには「見込み客との接触」がもっとも大事なポイントです。

まだ独自の自社商品や自社サービスが決まっていないのに、どんな人が見込み客になるのかもわかりません。

世間に広く目を向け

「この問題は自社の技術で解決できるんじゃないか」
「この人たちのこの課題は、ウチのサービスを応用すれば何とかしてあげられるんじゃないか」

という視点を持つことが大事です。

  • 展示会や商談会などに出かけ、自社の売込みよりも、相手の問題や課題を聞き取ることに集中する。
  • SNSやネットサービスを通じて「人の悩み」に注目する

「自社の技術やサービスで誰かの困りごとを何とかする」という視点で、自社サービスや自社商品を考えてみましょう。

小さな部品メーカーがコンサル業に

神奈川県にある社員4人のY社は、スマホなどで使用される部品メーカーでした。
そのノウハウから「部品の設計のアドバイス」を手掛け
「コストが下がって生産しやすくなる部品開発のコンサルタント」を業務として切り出すことにより、高収益化に成功しています。

独自商品やサービスの開発

自社オリジナルのサービスや商品があれば、大企業からの下請けに頼らずに独自の市場を開拓することができ、下請け脱却の道が開けます。

ただし、多くの製造業は、以下のようなステップになりがちです。

売れない商品(サービス)開発のステップ

  1. 自社技術を使えば、こんなものが作れるんじゃないか。
  2. 作ってみたけど、これはどんな人が買ってくれるんだろう。
  3. とりあえず、〇〇業界に売り込んでみようか。

コンサルタントであるこの記事の作者は、こういったケースをひんぱんに目にしています。

そしてこのステップで生まれた商品の多くは、売れずに「お蔵入り」になっています。

売れる商品(サービス)開発のステップ

  1. こんな人たち(会社、業界)が、こんなことに困っている。こういったものを欲しがっている人たちがいる。
  2. ウチの技術でこのようなサービス(商品)を作れば、彼らの困りごとは解消するのではないか。
  3. 作ってみたから、実際に彼らにテスト的に利用してもらおう。

下請け脱却を実現するためには、自社の取引関係を中心によく観察し「誰がどんなことに困っているのか」「その困りごとは自社の技術やサービスで解消できないか」をスタート地点として考えることをおすすめします。

資金調達

下請け脱却のための自社商品の開発や販路の開拓には、資金が必要になることが多いです。

資金調達を行うには、銀行や公的機関からの融資、クラウドファンディングなどがあります。

新規事業に乗り出す場合には、国や自治体が用意している「助成金・補助金」を利用できる場合が多いです。

条件や審査はありますが、返済が必要な銀行融資と異なり、受給される(もらえる)お金であることも多いので、一度は検討してみたほうがいいです。

地元の商工会議所には、ほとんどのばあい相談窓口があるので、いちど相談してみてください。

マーケティング戦略の構築

下請け脱却を目指すばあいに、最も課題となるのはこのマーケティングです。

自社の強みや独自性をアピールし、新規顧客を獲得するための戦略を考える必要があります。

マーケティングでは「販売活動」だとか「ホームページを作る」といった個別の活動に目が向いてしまいがちです。

でもマーケティング活動とは「ターゲットの設定」から商品開発、価格設定、販売活動に至るまで「売れるようになるための活動すべて」です。

下請け脱却を目指す場合には、経営者が率先してマーケティング活動を学び、マーケティング力を身につけていく必要があります。

営業力の養成

先の「マーケティング活動」と営業活動の違いは、

マーケティング活動が「売れるようになるための活動すべて」だったのに対して、営業活動は「売る活動すべて」という意味です。

マーケティング活動と異なり、営業活動は「人を目の前にした活動」が多いです。

営業ツール(プレゼン資料)の作成をはじめ、プレゼンテーション、営業トーク、クロージング(契約を促す活動)などを磨く必要があります。

この記事を読んでいる下請け企業の多くは、従業員が少ないと思います。

また下請けを長く続けていると、営業専業のスタッフもいないことが多いでしょう。

ということは、社長自身がマーケティング力も、営業力も身につけないといけない、ということです。

協業や業界連携

あなたと同じように下請け脱却を望む同業者や業界関係者と「横連携」を持つことによって、1社だけでは持つことができない交渉力や、企画力、製造力を持つことができます。

同じ業界だけではなく、他の業界の企業や業界団体との協力やネットワークの構築が「下請け脱却」に役立つことがあります。

SNSを積極的に活用し、既存の取引関係の枠組みを超えたコミュニケーションのネットワークを構築することもできます。

下請けからパートナーシップへの取引関係の転換

これがいちばんの「はなれワザ」かもしれません。

いま下請けで受けている企業との関係を、「元請け、下請け」という上下関係ではなく、「提携」のような「パートナー関係」に改善するというアイデアです。

単に呼びかたが変わるだけじゃないですか

たしかにそのような事例も見受けられます。

積極的に取引先対して改善提案や企画提案をして「パートナー企業を支援する」という姿勢に転換していきます。

これによって取引相手としての地位も向上して「上下関係」ではなく実質的な「協力関係」に関係そのものを転換していくことで「脱下請け」を実現することもできます。

まとめ「下請け脱却」のために小さな会社ができること

「下請けという立場」に不満を持つ経営者のかたは多いです。

でも一方で「自分で顧客開拓するのはこんなにも大変なのか」ということを、一度経験してみると、わかることがあります。

新規顧客開拓コストや営業コストを負担しなくてもよいぶん、下請け企業は安い価格でやらざるをえないのだ

という実感を得ることができるでしょう。

下請け脱却を実現するには、多くのコストと労力が必要です。

イッパツでうまく行くことも少なく、くりかえし試行錯誤する必要も出てきます。

このようなことを経営者が率先して取り組むことができた会社が、下請け脱却に成功して、自立した成長企業になることができるのです。

多くの場合は、いきなり「下請けを全面的に中止するわけでもないはずです。

なので、元請けとの関係を良好に保ちつつ、独自に販路を開拓する、という「両立路線」をしばらく継続するのが、最も現実的な対応になります。

おまけ:中小企業向け無料相談

下請けから脱却して「脱下請け」を実現したい。

でもどんな活動をしたらいいのかわからない。

今の状況ではムリだ。

そんなふうに感じている経営者の方は、こちらの「社長の無料オンライン相談室」をご利用ください。

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